遺言と不動産登記
取得することと主張すること
日本の法律では、土地などの不動産であってもお金であっても、意思表示だけで他の誰かに移転させることが可能です。例えばEさんとFさんがEさんが持つ土地の売買契約を結んだ場合、EさんとFさんが契約を結んだ時点で、EさんからFさんに土地の所有権が移ります。
これは遺言の場合であっても同様です。遺言に特殊な条件などが付いていない限り、遺言をされた方が亡くなられると遺言は効力を生じます。ですので、例えばある土地をGさんに譲る、という内容の遺言をした場合、遺言をされた方が亡くなられたときに、遺言が効力を生じてある土地の所有権はGさんに移転するのです。
ですが、所有権を取得するということと、それを誰かに主張するということは全く別のことです。日本の法律では、たとえ権利があったとしても、他の人にその権利を主張するためには、一定の要件が必要であると定めています。これを「対抗要件」と言います。
土地や建物などの不動産では、登記が対抗要件となります。この対抗要件がない場合、つまり自分名義の登記がない場合には、自分がその不動産の所有者であることを、他に人に主張することはできません。
主張できないということは、例えば裁判で自分に権利があるということは言えません。また、他の方が先に対抗要件を備えた場合には、他の方に権利を主張される結果、権利を失ってしまうこともあります。
相続の場面では
相続の場面でも同じことが言えます。先の例で言えば、遺言で土地をもらったGさんは、土地を自分名義の登記にしておかないと、他の人に、その土地が自分の所有であることを主張できません。
これは遺贈だけに限ったものではなく、その他遺言や遺産分割協議で、本来相続するはずだった割合と違う割合の不動産を相続した場合でも、登記をしておかないと「違う割合で不動産を相続した」ということを、第三者に主張することは出来ません。
このように、相続財産に不動産がある場合には、登記をすることがとても重要な手続になります。
登記がいらない場合
このように、不動産を相続した場合で、これを他の方に主張するためには登記が必要なのが原則です。
ですが例外的に、登記がなくても不動産を相続したことを主張できる場合があります。それが「相続させる」旨の遺言です。
「相続させる」旨の遺言は、文字通り「〇〇は■■に相続させる。」と遺言の中で定めることです。
このような遺言があった場合、遺言をされた方が、遺言で相続財産の分割方法を指定したものと考えます。
つまり、「〇〇という財産は、■■さんが単独で相続するように、遺産を分けなさい。」という内容だと理解するのです。
この遺言によって、〇〇という財産は、遺産を分割する手続をしなくても、■■さんが相続したものとされます。そして、相続した■■の権利は、登記がなくても第三者に主張できるものとされています。
遺言と登記手続
このように、相続で不動産を相続された方は、相続してご自分が所有されていることを登記しなくてはなりません。また、「相続させる」旨の遺言がある場合には、登記がなくてもある不動産を相続したということを他の方に主張できますが、今後、土地を担保に借入れをしたり、売却するためには自己名義の登記が必要になりますので、長い目で見ればご自分の名義に変えておくことが望ましいでしょう。